会社を経営し事業を続けていく上で、資金を管理することはとても重要です。
資金が不足すれば会社の経営を続けることはできなくなってしまうので、将来必要となる資金を予測して備えておくことが大切です。
この記事では、会社経営に欠かせない資金繰りについて必要となる知識をまとめました。
資金繰りとは
資金繰りとは、会社の収入と支出を管理し、必要となる資金が不足しないように準備しておくことを意味しています。
資金繰りを考える際の資金とは、現金や普通預金・当座預金、有価証券などの、すぐに支払いに利用できるものをいいます。
売掛金や貸付金などは、現金化するためには時間がかかりますので、資金繰りを考える際の資金には含めません。
資金繰りを考えるためには、支払いに利用できる資金をどれだけ保有しておくかということが重要になります。
資金繰りを考えることがなぜ必要かといいますと、売上が入金されるタイミングと、支払いのタイミングがずれることがあるからです。
例えば、手元に1,000万円の現金があり、今月に2,000万円の売上が生じたとします。
この例で、売上の2,000万円がすぐに入金されれば、来月に1,500万円の支払いがあったとしても資金繰りに困ることはありません。
しかし、2,000万円が2ヶ月後払いの売掛金になる場合は、来月の支払いまでに500万円が不足してしまいます。
そうなると、来月までに500万円の資金繰りを付けなければ、資金不足で支払いができないことになります。
このように、資金繰りを考えることは、倒産を回避し事業を継続させるためにとても重要になります。
資金繰りと資産の違い
資金繰りを良くするためには、資産を増やすことが重要と考えるかもしれません。
しかし、資金繰りと資産は必ずしも同じではないことに注意が必要です。
資産とは、貸借対照表の左側(借方)に記載される項目です。
資産の内容としては、流動資産として現金預金、受取手形、売掛金、有価証券、棚卸商品などがあります。
また、固定資産としては、土地・建物、商標権、借地権、投資有価証券などが含まれます。
これらの他に、繰延資産という項目もあります。
このように、資産には支払いに利用できる現金預金などの他にも、売掛金や不動産などの支払いには利用できない勘定科目も含まれています。
したがって、資金繰りのためには、単純に資産が増加すればよいのではなく、資産の中でも資金として利用できる項目を管理して不足が生じないようにすることが重要となります。
資金繰りと利益は異なる
資金繰りは利益を増やすこととも異なります。
会社が利益を上げていても、資金が不足しているために資金繰りに困ることはあり得ます。
なぜなら、会計で用いられる発生主義では、金銭のやり取りとは切り離して、取引の発生時点で費用や収益が計上されるからです。
利益は損益計算書上に現れる金額ですが、発生主義に基づいて記録された金額によって計算されるため、金銭のやり取りが反映されているとは限りません。
そのため、利益を上げていてもまだ入金はされておらず、手元の資金が不足しているという事態が生じる可能性があります。
このように、資金繰りと資産や利益は異なるものなので注意が必要です。
資金繰りとキャッシュフローの違い
資金繰りと混同しやすい概念にキャッシュフローがありますので、ここで違いを見ていきましょう。
キャッシュフローとは
キャッシュフローとは、過去の一定期間の現金の流れを指します。
キャッシュフローは、会社に流入した現金と会社から流出した現金の流れを把握することで、資金の流れを見えるようにするものです。
キャッシュフローを分析するためには、貸借対照表や損益計算書をもとにして、キャッシュフロー計算書を作成します。
資金繰りとキャッシュフローの違い
資金繰りもキャッシュフローも、資金の流れを把握しようとするものですが、目的が異なります。
資金繰りは、将来の収入と支出を予測し、資金の不足が生じないように備えるためのものです。
これに対してキャッシュフローは、過去の現金の流れを分析することで、経営課題を抽出し改善することに役立てようとするものです。
このように、資金繰りとキャッシュフローは、資金の流れを把握する点では同じであっても、将来の資金を予測することと過去の資金の流れを分析する点で違いが生じています。
たとえキャッシュフローで良好な数字が得られても、将来必要となる資金まではわかりませんので、資金繰りは別に考える必要があります。
資金繰りを悪化させる原因とは
資金繰りの悪化とは、将来的に必要となる資金が不足している状態です。
資金繰りの悪化を放置しておくと、事業を継続するための資金が足りずに、最悪の場合は倒産に追い込まれるリスクが生じてしまいます。
それでは、どのような場合に資金繰りが悪化するのでしょうか。
ここでは、資金繰りを悪化させる原因として、継続的な赤字と急激な売上の増加の2つを解説します。
継続的な赤字
売上が大きく減少して赤字になった状態が継続していると、資金繰りが悪化します。
人件費や地代などの固定費の支払いは売上に関わらず必要になりますが、売上が減少して会社に入ってくる収入が減ってしまうと、それらの支払いも困難になります。
そうなると、慢性的に資金が不足する状態に陥ってしまい、資金繰りが悪化することになります。
急激な売上の増加
売上の減少とは反対に、大きく売上が増加した場合にも資金繰りが悪化する可能性はあります。
売上を発生させるためには、仕入れや外注費などの経費が必要になりますが、それらの支払のタイミングが売上の入金よりも前になる場合は、資金不足になってしまうおそれがあります。
たとえば、平均して1ヶ月に1,000万円の売上を上げている企業が、1億円の取引をするとします。
この場合、普段は仕入れや経費が数百万円で足りるところが、数千万円の資金が必要になることでしょう。
その場合、原材料費や外注費などの支払い時期が、売上を回収する前に到来してしまうと、手元の資金が枯渇してしまう可能性があります。
このように、売上が急増した場合でも、資金繰りは悪化する可能性があることに留意する必要があります。
資金繰りの改善方法
資金繰りを改善するためにはどのような方法があるのでしょうか。
ここでは、いくつかの改善方法について見ていきます。
手元資金の把握
資金繰りを改善するためには、まず、手元の資金がいくらあるのか把握することが重要です。
資金繰りは将来の資金の過不足を予測するものですので、手元の資金を正確に把握した上で、将来の資金について計画を立てる必要があります。
いつ、どれだけの資金が不足するのかを知って対策を取るためにも、手元資金を把握することから始めましょう。
資金化されていない資産の管理
会社の資産の中には、資金として利用できるにもかかわらず資金化されていないものが存在することがあります。
貸借対照表をチェックすれば、回収されていない売掛金や、利用していない固定資産、保有する必要性のない有価証券、処分せずに放置されている在庫などが見つかるかもしれません。
このような資産を売却し、資金として活用できるようにすれば、資金繰りの改善に大きく役立つ可能性があります。
経費の削減
経費を削減することも資金繰りの改善に貢献します。
販売費(営業職の人件費、旅費交通費、通信費、広告宣伝費など)や、一般管理費(事務職の人件費、福利厚生費、消耗品費、交際費など)といった経費について、削減できる余地がないか分析してみましょう。
不要な経費に気づくことができれば、たとえば、人件費を削減するためにアウトソーシングや外注を利用するなどの対策を取ることが可能になります。
また、金融機関からの借入金がある場合は、より良い条件で借り換えができないか検討してみることで、支払利息等の負担の軽減につながる可能性があります。
資金の調達
資金繰り改善のためには、資金の調達も重要になります。
資金調達の方法は、融資を受ける、新株を発行して増資する、助成金や補助金を申請するといった方法があります。
また、売掛金などの売上債権がある場合は、ファクタリング事業者にその売上債権を譲渡することで資金を調達するという方法もあります。
資金繰りのための資金調達方法
資金繰りのために利用できる資金調達方法にはどのようなものがあるでしょうか。
ここでは、代表的な資金調達方法を解説していきます。
融資
融資はもっとも一般的な資金調達方法といえます。
ここでは、融資について少し詳しく見ていきましょう。
融資の種類
融資には、プロパー融資と保証付き融資、制度融資の3つがあります。
プロパー融資とは、企業が銀行から直接に借り入れを行い返済していくものです。
企業に対して銀行が直接的に貸し付けを行うので、企業が返済できない場合は銀行が貸し倒れのリスクを負うことになります。
そのため、審査が厳しく、融資を受ける難易度は高くなっています。
保証付き融資とは、信用保証協会の保証が付けられた融資のことです。
信用保証協会が保証することで貸し倒れのリスクが低くなるため、プロパー融資よりも融資の難易度が低くなります。
制度融資とは、自治体と金融機関、信用保証協会が連携することで、資金を借りやすくしているものです。
制度融資でも信用保証協会による保証が付けられるので、銀行にとってはリスクの低い貸し付けになり、融資の難易度が低くなっています。
融資の難易度
融資の難易度を難しい順に並べると、概ね以下の通りになります。
- 都市銀行の融資
- 地方銀行の融資
- 信用金庫の融資
- 信用保証協会の保証付き融資
- 日本政策金融公庫の融資、制度融資
- ノンバンクの融資
都市銀行の融資
都市銀行とは、三菱UFJ銀行や、三井住友銀行、みずほ銀行のように、全国的に展開している大手の銀行です。
都市銀行は、豊富な資金源を背景に、上場企業などの信用力の高い相手と主に取引を行っています。
都市銀行の融資は金利が低いという特徴があるものの、審査が厳しく、信用力の低い中小企業やベンチャー企業にとっては難しいものです。
特に、プロパー融資は直接貸し付けが行われるため、最も審査の基準が厳しいものになっています。
地方銀行の融資
地方銀行は、地域に密着した事業を展開している銀行です。
地域密着型の金融機関には、他に信用金庫がありますが、地方銀行の融資は、信用金庫に比べると低金利で大きな限度額の融資を受けられるメリットがあります。
その一方で、審査が信用金庫に比べて厳しいというデメリットもあります。
信用金庫の融資
信用金庫は、地域経済への貢献を目的とした金融機関です。
地域に密着して業務を行っているため、地元の企業にとっては相談しやすい金融機関になっています。
信用金庫は、融資審査の基準が相対的に低くなっていますので、銀行からの融資よりも難易度は低い傾向にあります。
他方で、銀行に比べると利率が高めに設定されていることや、融資限度額が銀行よりも低いなどのデメリットには注意が必要です。
信用保証協会の保証付き融資
信用保証協会の保証が付いている場合は、プロパー融資に比べると融資の難易度が下がります。
保証により貸し倒れのリスクが低くなるので、審査基準も低くなるためです。
一方、信用保証制度を利用するためには、企業規模、業種、区域・業歴といった基準を満たす必要があります。
また、信用保証料を負担する必要もあります。
日本政策金融公庫の融資・制度融資
日本政策金融公庫は政府系の金融機関で、事業者向けに様々な融資制度を用意しています。
低金利で、無担保・無保証でも融資が受けられるメリットがあります。
日本政策金融公庫の融資は比較的借りやすくなっているため、創業時などの信用力が低い場合にも利用することができます。
日本政策金融公庫の融資と同様に、公的機関が関与する融資に制度融資があります。
制度融資は、地方自治体と金融機関、信用保証協会が連携して貸し付けを行うもので、比較的融資の難易度は低いものです。
制度融資では、地方自治体が銀行に対して利子補給を行うことで、長期間・低金利の融資を実現しています。
さらに、自治体の提供する融資メニューによっては、無担保・第三者保証人不要で融資を受けられることもあります。
ノンバンクの融資
ノンバンクとは、銀行のような預金業務を扱わない金融機関です。
信販会社や、消費者金融会社、リース会社等がノンバンクに当たります。
ノンバンクの融資は、他の金融機関よりも高い利率が設定される代わりに、非常に借りやすいものになっています。
審査基準が厳しくなく、短い審査期間で無担保・無保証でも借り入れができるというメリットがノンバンク融資にはありますが、高金利の他にデメリットもあります。
ノンバンク融資は、高金利と引き換えに貸し倒れリスクが高い相手にも融資を行っているので、ノンバンク融資を利用することで、銀行などの他の金融機関から貸し倒れリスクの高い企業と見られて、融資を受けにくくなるおそれがある点には注意が必要です。
当座貸越契約
融資の一種として、当座貸越を資金調達のために利用する方法があります。
当座貸越契約とは、極度額を設定し、その範囲内であれば当座預金の残高を超えて借り入れができるというものです。
当座貸越では、契約期間内で極度額の範囲内であれば、いつでもいくらでも借り入れを行うことができます。
当座貸越契約で実際に借り入れをすることになるのは、口座の残高を超えた払い出しが行われるときです。
そのため、当座貸越契約を締結しただけでは、利息を支払う必要はありません。
このように、当座貸越契約は、資金が必要になるときに備えて資金調達の枠を確保できる仕組みになっています。
当座貸越契約は、極度額が存在するとはいえ銀行が貸し倒れのリスクを負うことになりますので、審査の基準は厳しくなっています。
また、金利も高くなる傾向にあります。
リース会社
リース会社を資金調達に利用する方法があります。
その一つは、リース会社が行っている貸し付けを利用する方法です。
もう一つは、設備投資が必要になる場合に、ファイナンスリースを利用する方法です。
ファイナンスリースとは、借り手の会社が選択した物件を、貸し手のリース会社が購入して会社に貸与するものです。
物件の購入代金や金利、税、保険料などは、支払われるリース料によって負担されることになります。
ファイナンスリースを利用すると、設備導入の際にまとまった資金が不要になります。
金融機関から借り入れをする必要がないので、融資枠を温存したまま資金調達したのと同様の効果を得ることができます。
また、リース料は原則として固定のため、銀行借入のような金利変動のリスクを避けることができ、資金管理がしやすくなります。
さらに、固定資産税や保険料の支払い等の管理事務はリース会社の方が行うことから、設備導入に伴う事務処理を簡素化できます。
ファイナンスリースには、中途解約ができないことや、融資よりもリース料負担の方が割高になること、対象物件を所有することができないことといったデメリットもあることには留意が必要です。
増資
新株を発行して増資を行うことで、資金調達をすることができます。
増資には、第三者割当増資、株主割当増資、公募増資といった形態があります。
増資のメリットとしては、原則として返済する必要がないことがあげられます。
銀行からの借り入れのような返済や利息の支払いをする必要がないので、必要な資金を確保するためのコストを低減することができます。
また、新株を発行して増資を行うことで資本金の額が増加しますので、自己資本比率が高くなり、財務面での安定性が向上するという利点もあります。
増資のデメリットとしては、新株発行により多数の株式を取得した株主が出現することで、会社経営の支配権を握られてしまうリスクがあります。
助成金・補助金
助成金や補助金は、国や地方自治体が経営を支援するために設けた制度です。
助成金は、雇用調整助成金などのように、要件を満たしていれば受給できる可能性が高いものです。
一方で補助金は、採択件数などの上限が決まっているものが多数です。
そのため、補助金は、申請しても必ずしも受給できるとは限りません。
助成金・補助金は、原則として返済が不要なことが特徴です。
助成金等を利用できれば、資金調達の選択肢が増えます。
利用できる助成金等がある場合は、受給を検討してみるとよいでしょう。
ファクタリング
会社が売上債権を保有している場合には、ファクタリングを利用して資金調達をすることが考えられます。
ファクタリングとは、売掛金などの債権をファクタリング事業者に買い取ってもらうことで資金化する方法です。
ファクタリングには、手数料がかかってしまうというデメリットがあります。
売掛金などを額面通りに回収できるわけではありません。
特に、債務不履行のリスクが高い債権は手数料が高くなります。
また、悪質な業者にあたる危険性もあります。
そのため、ファクタリングの利用は慎重に考えるべきでしょう。
資金繰りの管理方法
資金繰りを管理するためには、資金繰り表の作成が欠かせません。
ここでは、資金繰りの管理方法として、資金繰り表について解説していきます。
資金繰り表とは
資金繰り表とは、一定期間のすべての現金の収支を記録し、資金の過不足を把握できるようにした表です。
時間的な余裕のない資金調達が必要になると、会社が取り得る手段は限られてしまいますので、資金繰り表を作成し、最低でも3ヶ月、できれば6ヶ月先までの資金繰りを予測しておくことで、余裕を持った資金調達が可能になります。
資金繰り表に入れるべき項目とは
資金繰り表にはどのような項目を記載すべきでしょうか。
- 経常収支
経常収支は、経常収入と経常支出の差額です。
経常収入には、売上代金(現金売上、売掛金の回収、手形期日、手形割引)の他、前受金、その他の収入が含まれます。
資金繰り表では現金の動きを把握する必要がありますので、売上代金は、回収予定の月に回収すべき金額を記載します。
経常支出は、仕入代金(現金仕入れ、買掛金支払い、手形決済)の他に、人件費、販売費、管理費、税金の支払い、その他の支出を含みます。
- 財務収支
財務収支は、財務収入と財務支出の差額です。
財務収支では、主に借り入れと返済を管理します。
借り入れを行おうとする場合は、財務収入の借入金の欄に記載します。
また、返済については、返済予定表などを参考にして、毎月の返済予定額を記入しましょう。
- 経常外収支
経常外収支は、経常外収入と経常外支出の差額です。
補助金・助成金や、預金の受取利息や配当金など、本業以外の収入は経常外収入になります。
経常外支出には、本業の仕入れや経費以外の支出が含まれます。
経常外支出の中心は設備投資ですが、有価証券の購入や貸付金などの支出も経常外支出となります。
なお、財務収支のその他収入・支出の欄に、経常外収入・支出を含めて記載する場合もあります。
これらの経常収支、財務収支、経常外収支について項目ごとに記載を終えたら、前月繰越の額を含めた合計額を計算し、翌月繰越の欄に記載しておきましょう。
資金繰り表の作成方法
資金繰り表は、エクセルで作成する他に、各種会計ソフトの機能で作成することもできます。
また、日本政策金融公庫などがひな形を用意していますので、それを利用して作成する方法もあります。
資金繰り表には定まったフォーマットがありませんので、自分にあった使いやすい資金繰り表を利用するとよいでしょう。
まとめ
この記事では、資金繰りの基礎知識について解説してきました。
会社は資金がなくては存続できないため、資金繰りは会社を経営していく上で常に意識しておくべき事柄といえます。
資金不足で経営難に陥ることがないように、必要に応じて専門家を利用し、資金繰りについて早めの対策を取ることが望ましいでしょう。