私募債とは?メリット・デメリット、活用する方法と実例をわかりやすく解説

資金調達方法のひとつに私募債があります。
私募債は社債の一種であり、小規模な資金調達に適した方法です。
銀行融資などに比べて資金調達のハードルが低く、発行自体も簡単であるため、私募債の発行額は年々増加しています。
この記事では、これから私募債の発行を検討する人に向けて、私募債の基礎知識、メリット・デメリット、活用する方法と実例を分かりやすく解説します。

私募債とは

私募債とは社債の一種であり、特の小規模のものをいいます。
特定少数の投資家に社債を引き受けてもらうことで資金を調達する仕組みです。
私募債を発行した場合、投資家に対して一定の社債利息を支払う必要があるほか、償還期日には借りたお金を返済する必要があります。
会社の資金調達方法としては、銀行融資が最も一般的です。
しかし全ての会社が融資を受けられるわけではなく、経営状況、特に返済力に問題がある会社では融資を拒否されることが珍しくありません。
金融機関から融資を受けられない会社では、同様の理由によってノンバンクからも融資を受けられないケースがあり、その場合には他の方法によって資金を調達する必要があります。
このような場合に利用できる資金調達方法として、私募債の活用が広がっています。

私募債と公募債の違い

「私募債」と聞けば、その他の社債とどう違うのか気になる人も多いことでしょう。
社債には大きく分けて、私募債と公募債があります。

公募債とは?

一般的な社債のイメージといえば、大企業が多額の資金調達を目的として社債を発行し、不特定多数の投資家に対して広く引き受けを求めるものです。
このような社債は公募債と呼ばれるもので、発行規模の点において私募債とは大きく異なります。
公募債は数百億円~数億円規模の資金調達にも利用されます。
発行規模が大きいだけに、公募債を発行する際には証券会社を通じて投資家を募集しなければなりません。
つまり、引受人を公(おおやけ)に募集することから「公募債」と呼ぶわけです。
市場を通して資金を調達する公募債は、投資家が不当な不利益を被ることのないように、市場のルールに則って発行する必要があります。
このため、社債管理者を設置したり、有価証券届出書・有価証券報告書を提出したり、様々なルールの縛りを受けます。

私募債は公募債より簡単

以上の内容から、私募債と公募債の違いを比較してみましょう。
端的にいうと、私募債は公募債よりも簡単に発行できます。
既に述べた通り、私募債は小規模の社債です。
比較的小額の資金調達を目的として発行し、縁故者をはじめとする一部の投資家に引き受けてもらいます。
私募債による調達額に上限はありませんが、引受人の上限があることから、発行総額は1億円未満になるのが一般的です。
また私募債は、市場のルールに縛られることもありません。
私募債は金融証券取引法2条3項の「有価証券の私募」にあたるため、社債管理人の設置や有価証券届出書・有価証券報告書による開示は不要です。

私募債の特徴

次に、私募債の特徴について簡単にみていきましょう。
いくつかの点について、私募債と融資を比較することによって、私募債の特徴がよくわかります。

調達先

まず調達先ですが、私募債は特定少数の投資家から調達するのに対し、融資は銀行や日本政策金融公庫などの金融機関が調達先となります。
私募債では縁故者が引受人となるため、会社の経営状況よりも引受人との私的な関係が重要です。
銀行から融資を受けられない会社は、信用力や返済力に何らかの問題を抱えており、「貸し倒れリスクが高い」と判断されています。
そのような会社の私募債を引き受ける場合、投資家はそれなりのリスクを負わねばなりません。
会社と引受人の私的な関係に拠るからこそ、私募債という仕組みが成り立っているのです。
銀行ならばこのような判断は期待できません。
メインバンクが支援を打ち切った場合、サブバンクも一斉に手を引くのが通例です。

返済方法

私募債と融資では、返済方法が異なります。
私募債の償還方法は、償還期日に一括で返済する「満期一括償還」が基本です。
ただし、償還方法は会社が自由に決めることができ、一定期間ごとに定時償還も可能です。
融資は借入期間によって返済方法が異なります。
1年以内に返済予定の短期融資であれば、返済期日に一括で返済するのが一般的ですが、1年以上に渡って借り入れる長期融資の場合、毎月返済するのが基本です。

期間と利息

私募債の期間は、資金使途や発行する会社の償還能力によって決めます。
設備投資ならば3~5年、運転資金ならば2~3年での償還が目安です。
この期間中、会社は社債利息を支払う必要があります。
社債金利は銀行の融資金利よりも低い水準、なおかつ銀行の預金金利よりも高い水準に設定することで、会社と引受人の双方にメリットがあるように設定するのが一般的です。
数年にわたって借り入れるため、期間中の金利の変動が気になるところですが、私募債の金利は固定となります。
融資の期間と金利も、資金使途や融資先の返済能力に左右されますが、1年以内の短期融資として借り入れる場合も少なくありません。
年利1~3%程度が目安となるほか、変動金利に設定されることが多いです。

私募債の種類

私募債には大きく分けて「少人数私募債」と「プロ私募債」の二種類があります。

少人数私募債

少人数私募債は、少数の投資家を対象に発行する社債です。
引受人となる投資家の性質を問わないため、知人や親族、従業員などの縁故者による引き受けも可能です。
少人数私募債には以下のような制約があります。

  • 少人数私募債で勧誘できる人数は50名未満である
  • 私募債の発行総額を社債の最低金額で割った値が50未満でなければならない
    私募債の応募額が当初の募集総額に達しなかった場合、応募額によって発行総額を決定する
  • これらのルールによって、私募債の発行規模は自ずから小規模になります。

プロ私募債

少人数私募債は引受人の性質を問わず、投資のプロでなくとも引き受けることができます。
これに対し、プロ私募債は投資のプロに対して発行する私募債です。
プロ私募債を引き受けることができるのは、証券会社や銀行、保険会社などの適格機関投資家に限られます。
ただし、実際にプロ私募債によって資金を調達する際には、適格機関投資家の中でも銀行が引受人になるのが一般的です。
「銀行引き受けの私募債=プロ私募債」というわけではありませんが、「銀行引き受けの私募債≒プロ私募債」とイメージして差し支えありません。

銀行保証付私募債

銀行が引き受ける私募債を「銀行保証付私募債」といいます。
私募債の引き受けと保証を銀行が一手に担い、発行事務手続きなども一括で行います。
社債利息のほかに事務手数料や保証料などがかかりますが、引受人の勧誘や事務負担を軽減できるのがメリットです。
また、発行する社債を全額引き受けてもらうことにより、必要調達額を確実に調達できます。
ただし、銀行は審査を行った上で引き受けるため、必ず資金を調達できるとは限りません。

信用保証協会保証付私募債

信用保証協会保証付私募債は、銀行と信用保証協会が共同で保証する私募債です。
この場合、私募債の引受人は銀行ですが、保証人が銀行と信用保証協会になります。
したがって、銀行に対する保証料や事務手数料のほか、信用保証協会に対する保証料の支払いも発生するため、調達コストが高くなる傾向があります。

新しい私募債の形

近年の社会事情を踏まえて、新しい形のプロ私募債も誕生しています。
SDGs私募債がその好例です。
SDGs私募債は、銀行を引受人として私募債を発行し、発行手数料の一部をSDGs関連団体に寄付するものです。
資金調達の内容は、一般的な銀行引き受けの私募債とほとんど変わりませんが、SDGsという要素が絡むことによってSDGs活動の支援につながります。
SDGsへの取り組みが活発化している昨今、SDGs私募債で資金を調達することで会社のイメージアップも期待できます。

少人数私募債に関する法改正について

私募債には少人数私募債とプロ私募債がありますが、実際の資金調達のハードルを考えると、少人数私募債の利用が現実的でしょう。
銀行融資を受けられない会社は、銀行に引き受けてもらえない可能性が高いです。
少人数私募債で資金を調達する際には、法改正について知っておく必要があります。

少人数私募債の税務上のメリット

以前、少人数私募債には税務上のメリットがありました。
これは、少人数私募債の社債利息の課税ルールが分離課税であったためです。
会社のオーナーが少人数私募債の引受人になった場合も同様です。
オーナーが会社から多額の役員報酬を受け取っている場合、累進課税によって最大55%の課税となります。
税金を減らすためには、役員報酬を減らす工夫が必要です。
そこで、会社が発行した少人数私募債をオーナーが引き受け、役員報酬の代わりに社債利息を受け取ることによって課税所得を減らせば、節税効果を得ることができます。

平成25年の税制改正

現在、少人数私募債にこのような節税メリットはありません。
平成25年の税制改正により、社債利息の課税ルールを分離課税から総合課税の対象となりました。
ただしこの改正では、平成27年12月31日までに発行した少人数私募債は分離課税としていたため、節税メリットを享受するために駆け込みで少人数私募債を発行する会社が続出。
この抜け道を塞ぐため、最終的には「平成28年1月1日以降に支払われる償還利息は全て総合課税」となりました。
もちろん、令和5年現在でも少人数私募債の償還利息は総合課税の対象であり、節税効果は期待できません。

私募債のメリット

私募債を活用することで、以下のメリットが得られます。

  • 低コストで資金調達できる
  • 自治体によっては補助金を受けられる
  • 銀行融資よりも資金を調達しやすい
  • 発行条件を柔軟に決められる
  • 資金調達の多様化につながる
  • イメージアップにつながる
  • 資金繰り計画を立てやすい
  • 発行手続きが簡単
  • 無担保・無保証で資金調達できる
  • 従業員の意識向上につながる
  • 支払利息を損益算入できる
  • 引受人にもメリットがある

ここでは、それぞれのメリットについて解説します。

低コストで資金調達できる

ほとんど資金調達にはコストがかかります。
融資ならば支払利息、手形割引ならば割引料、ファクタリングならば買取手数料といった塩梅です。
調達コストは資金繰りの負担になるため、安いに越したことはありません。
私募債を発行する場合、少人数私募債ならば低コストで調達できるのがメリットです。
少人数私募債の調達コストは主に社債利息であり、発行する会社が自由に決めることができます。
このため、金利を銀行融資よりも低い水準に設定することによって調達コストが安くなります。

自治体によっては補助金を受けられる

私募債のうち、少人数私募債は補助金を受けられる場合があります。
補助金の実施の有無、また助成金の条件や内容は自治体によって異なりますが、社債利息を補助する制度が一般的です。
一例として、過去に東京都足立区が実施した補助金をみてみましょう。

  • 補助金の内容…少人数私募債の社債利息の一部を補助
  • 支給金額…補助対象額×補助率(補助対象額は少人数私募債の発行額、ただし3000万円まで。補助率は年率2%が基本)
  • 補助対象期間…少人数私募債を発行した日から2年間

このような補助金を活用することで、社債利息の負担を大幅に軽減できます。

銀行融資よりも資金を調達しやすい

資金調達のハードルが低いことは、私募債の大きなメリットです。
特に、少人数私募債と銀行融資と比較した場合、少人数私募債の方が調達のハードルが低くなります。
少人数私募債は縁故者を対象とするため、銀行のように審査を受ける必要がありません。
想定される引受人は経営者個人、経営者の親族や友人、従業員、取引先などです。
たとえ銀行から融資を受けられない状況でも、引受人さえ集めることができれば問題なく資金を調達できます。
ただし、上記の通り銀行が引き受けるプロ私募債は審査が必須となるため、資金調達には一定のハードルがあります。

発行条件を柔軟に決められる

少人数私募債の発行にあたって、発行条件を決めなければなりません。
この条件も、会社の裁量で決めることができます。
発行条件の中でも特に重要なのが、社債の利率と償還方法・期限です。
資金繰り負担を軽減するためには、社債の利率はできるだけ低く抑えた方がよく、償還方法は一括のほうが望ましいでしょう。
引受人にとってあまりにも不利な条件でなく、事業計画にも納得を得られるならば、会社の希望する条件で発行できることも多いです。

資金調達の多様化につながる

日本の中小企業は、銀行融資への依存度が高いといわれます。
銀行融資に依存している会社が、経営悪化や景気後退などによって銀行融資を断られた場合、資金繰りが行き詰る可能性が高いです。
この問題を緩和するために、政府も資金調達の多様化を推奨しています。
資金調達を多様化する上でポイントとなるのが、融資とは異なる性質の資金調達方法を選ぶことです。
経営状況や返済力を重視する資金調達方法を複数確保したところで、あまり意味はありません。
融資を断られたのと同じ理由によって、他の資金調達方法も利用できない可能性があるからです。
少人数私募債は融資を受けられない会社でも利用しやすいため、資金調達の多様化に適しています。

イメージアップにつながる

会社のイメージアップが期待できることも私募債のメリットです。
銀行引き受けの私募債は審査をクリアする必要があるため、私募債を発行すること自体が信用の裏付けとなります。
また、上記でも解説した通り、SDGs活動と紐づけた私募債などもあるため、積極的に利用することでイメージアップが期待できます。

資金繰り計画を立てやすい

私募債で資金を調達した場合、資金繰り計画が立てやすいです。
銀行の長期融資などでは毎月返済が基本となるため、元金と利息の支払いが月々の資金繰りに影響してきます。
もちろん、返済を織り込んで資金繰り計画を立てる必要があります。
経営には波がありますから、完済までに資金繰りが苦しくなることもあるでしょう。
このとき、資金調達に追われたり、最悪の場合には資金繰りがショートすることも考えられます。
これに比べて、満期一括返済の条件で私募債を発行した場合、月々の返済を考えずに資金繰り計画を立てることができます。
もちろん、償還期日には一括で支払えるだけの現金を確保しておく必要がありますが、償還期日に合わせて長期的に取り組むことができ、この意味でも計画的な運用がしやすいです。

発行手続きが簡単

私募債は、公募債のように厳しいルールに縛られることがなく、簡単な手続きで発行できます。
社債管理者が不要、有価証券届出書・有価証券報告書の提出が不要、少人数私募債では審査も不要です。
私募債を銀行が引き受ける場合、発行手続きや社債管理を全て銀行が代行するため、発行手続きが一層容易になります。

無担保・無保証で資金調達できる

無担保・無保証で資金調達できることは、私募債の大きなメリットです。
中小企業が銀行から融資を受ける場合、担保・保証の有無が重視されます。
不動産などの担保余力が十分、あるいは信用保証協会の保証枠に余裕があれば、経営悪化局面でも比較的容易に融資を受けることができます。
万が一貸し倒れに陥っても、担保資産の売却や信用保証協会の弁済によって、貸倒損失の大部分を回避できるためです。
逆に、経営が悪化している、業歴が短い、銀行との取引歴が短いなどの悪材料を抱えており、なおかつ担保・保証による保全も不十分な会社は、融資を受けることは困難でしょう。
これに対し、私募債は無担保・無保証でも発行できます。
物的担保はもちろんのこと、経営者個人が連帯保証人になる必要はありません。
これは、少人数私募債・プロ私募債の両方に共通するメリットです。

従業員の意識向上につながる

少人数私募債では、従業員が社債を引き受けることも可能です。
これにより、従業員の意識向上につながります。
この場合、私募債を引き受けるかどうかは従業員次第ですから、経営者は従業員に対して経営計画や経営情報を開示しながら募集しなければなりません。
これが、従業員が会社の方針や経営内容を知る機会となり、経営への参画意識も高まります。

支払利息を損益算入できる

投資家から資金を調達する場合、株式を発行するのも一つの手です。
しかし株式発行では、投資家に支払う配当金を損金(経費)に算入できません。
一方、私募債の利息は損金に算入できるため、節税メリットがあります。

引受人にもメリットがある

少人数私募債の引受人は、最悪の場合には社債が償還されないリスクを負います。
社債金利が銀行の預金金利よりも低いければ、いくら縁故者でも「(破綻リスクの低い)銀行に預けていた方が安全」と考えるでしょう。
そこで、少人数私募債は銀行の預金金利よりも高い水準で発行するのが一般的です。
現在の預金金利は、低い水準では0.001%、ネット銀行などでもせいぜい0.3%程度ですから、年利2%程度の少人数私募債は十分に魅力的な金融商品になり得ます。
このように、私募債は引受人にもメリットがあります。

私募債のデメリット

私募債のメリットを色々と紹介しましたが、私募債にはデメリットもあります。
主なデメリットは以下の通りです。

  • リスケジュールができない
  • 融資環境が悪化する恐れがある
  • 調達コストが高くなる場合がある
  • 少人数私募債は多額の資金調達に不向き

ここまでの解説と重複する内容も含め、それぞれのデメリットをみていきましょう。

リスケジュールができない

次に、私募債はリスケジュールができません。
リスケジュールとは、経営悪化などによって返済が困難になった場合に、返済計画の変更を行うことです。
リスケジュールが認められれば、リスケジュールの期間中は利息のみを支払い、元金の支払いを据え置くことができます。
そもそも、なぜリスケジュールを行うかといえば、元金と利息の支払いに耐えられず、資金ショートの危機に瀕しているからです。
リスケジュールの結果、それまで元金返済に充てていた資金を他の使途で活用できます。
このため、経営再建の第一歩としてリスケジュールに踏み切る会社も多いです。
私募債は満期一括償還が基本ですから、償還時に多額の資金が必要になります。
資金繰りが苦しければ、リスケジュールによって償還期日を延長したいところ。
しかし私募債はリスケジュールできないため、発行時に決めた償還を必ず守る必要があります。
償還のための資金が手元にない、あるいは償還による資金の流出で経営破綻の恐れがあるといった場合には、償還に合わせて再度私募債を発行し、償還を繰り延べることも可能です。
この場合、社債の募集に苦労したり、引受人との関係が悪化したり、なにかと問題が生じます。

融資環境が悪化する恐れがある

私募債のメリットでも述べた通り、私募債を発行することで会社のイメージアップが期待できます。
ただし、少人数私募債を発行する場合には注意してください。
少人数私募債も縁故者の信用がなければ調達できず、その意味では信用の裏付けになります。
しかし銀行から見た場合、「銀行から借りることができない(=経営に問題がある)から少人数私募債で調達したのではないか」というマイナス評価につながることがあります。
その結果、融資環境が悪化する恐れがあるため注意が必要です。

調達コストが高くなる場合がある

少人数私募債の社債金利は、銀行融資の金利よりも安く設定できる可能性があります。
ただし、必ずしも調達コストが安くなるとは限らず、むしろ高くなるケースも少なくありません。
いくら縁故者が引き受けるとはいえ、縁故者も引き受けに伴うリスクを考慮します。
経営悪化が深刻であれば、それなりに高い金利でなければ引き受けてもらうのは難しいでしょう。
また、銀行融資を受けられない会社が私募債によって資金を調達する場合、たとえ銀行より高い水準であっても合理的な設定といえます。
それ以上に注意すべきは銀行引き受けの私募債です。
銀行保証付私募債は、社債利息に加えて事務手数料や保証料などがかかるため、少人数私募債よりも調達コストが高くなります。
さらに、信用保証協会保証付私募債であれば、銀行と信用保証協会の二者に対して保証料を支払う必要があり、銀行保証付私募債以上に調達コストがかかります。

少人数私募債は多額の資金調達に不向き

少人数私募債の特徴でも簡単に述べた通り、少人数私募債は多額の資金調達に不向きです。
これは、以下の発行要件によるものです。

  1. 社債権者が50名未満であること
  2. 社債総額を社債の最低金額で割った金額が50未満であること
  3. 私募債の応募額が当初の募集総額に達しなかった場合、応募額によって発行総額を決定する

ここで注意したいのは、1の要件は50名以上に対する発行はもとより、勧誘してもいけないということです。
極端にいえば、49名に対して勧誘した結果、引き受けに応じた人が1人であれば、それ以上の勧誘はできないため社債権者は1人だけになります。
もちろん、1人で引き受けることができる社債額には限界があるため、実際の調達額は当初の希望額を大きく下回るでしょう。
また、2の要件にも注意が必要です。
例えば、社債の最低金額を1口30万円とした場合、社債総額は1500万円未満でなければなりません。
応募を促すには1口当たりの金額を抑えるべきですが、1口の金額が小さいほど発行総額も低くなるというジレンマがあります。

私募債の発行から償還までの流れ

実際に私募債によって資金を調達する際には、どのような流れになるのでしょうか。
少人数私募債と銀行保証付私募債の、発行から償還までの流れをそれぞれ解説します。

少人数私募債の場合

少人数私募債の発行から償還までの流れは以下の通りです。

  1. 募集要項を決め、事業計画書を作成する。
  2. 取締役会で募集要項・事業計画書の妥当性を確認し、決議を行う。
  3. 少人数私募債の申込書を作成し、引受人の受付・勧誘を行う。
  4. 応募者に対して、必要に応じて調査(プロ投資家ではないか、反社会勢力ではないかなど)を行う。
  5. 引受人が決定した後、最終的な発行総額を決定する。
  6. 募集決定通知書を作成し、引受人に送付する。
  7. 引受人から申込証拠金の入金があったら、申込証拠金預証の作成・送付を行う。
  8. 台帳を作成し、利払いや償還などを管理する。
  9. 償還期日までの間、引受人に対して社債利息を支払う。
  10. 私募債が満期を迎えると、銀行に対して一括償還を行う。

流れの3で引受人の募集を行いますが、この際には1で作成した事業計画書によって少人数私募債発行の意図や計画を説明することが重要です。
これによって、銀行から融資を受けられないなど、何らかの問題を抱えている会社でも納得を得られる可能性が高まります。
もちろん、償還までの期間中も、必要に応じて経過報告を行うべきでしょう。
またプロ私募債とは異なり、少人数私募債は発行会社が社債を管理しなければなりません。
したがって、7で作成する申込証拠金預証の原本の管理、台帳による利払い・償還の管理を厳重に行う必要があります。

銀行保証付私募債の場合

銀行が私募債を引き受ける場合、引き受ける銀行によって細かな流れが異なる場合があります。
ここでは、基本的な流れに沿って解説します。

  1. 発行会社から銀行に対して、私募債の引き受けを依頼する。
  2. 銀行は発行会社の財務水準を審査し、一定水準を満たしている場合には引き受けを承諾する。
  3. 発行会社は銀行に社債事務を委託する。銀行は私募債の発行・管理事務を行う。
  4. 発行した私募債を銀行が引き受け、発行会社に買受資金を払い込む。
  5. 償還までの間、発行会社は銀行に対して社債利息を支払う。
  6. 私募債が満期を迎えると、発行会社は銀行に対して一括償還を行う。

この通り、銀行保証付私募債の流れは、少人数私募債によりも簡素です。
これは、少人数私募債で発行会社が負担すべき事務手続きや、社債の管理などを全て銀行に委託できるためです。

私募債での資金調達が向いている会社

私募債による資金調達は、どのような会社に向いているのでしょうか。
上記で解説したメリット・デメリットを踏まえて、私募債が向いている会社をいくつか紹介します。

銀行融資を断られた会社

中小企業の多くは銀行融資によって資金を調達しています。
このため、銀行融資を断られた会社は資金繰りに行き詰る可能性が高いです。
この場合、私募債での資金調達が向いています。
特に少人数私募債は、縁故者との関係次第でまとまった資金をスムーズに調達できるため、銀行融資を断られた会社でも調達可能です。

小規模企業

小規模企業の資金調達にも私募債が向いています。
というのも、小規模企業は業績・財務が脆弱であり、銀行融資に苦戦しやすいからです。
特に問題になるのが担保・保証の不足です。
小規模企業は業容が小さいため資産も乏しく、銀行は保全の確保が困難になります。
また、信用保証協会の保証枠は月商を基準とするため、小規模企業では融資枠も小さくなるのが一般的です。
つまり小規模企業は、業績・財務の脆弱性に加えて、担保・保証の不足によって銀行融資に苦労することが多いのです。
その点、私募債は無担保・無保証で発行できるため、小規模企業にも利用しやすい資金調達方法といえます。

ベンチャー企業

ベンチャー企業をはじめ、起業後間もない会社には私募債が向いています。
これもやはり、銀行融資を受けることが難しいためです。
銀行は、現在と将来(少なくとも融資期間中)の返済力を審査します。
審査のカギとなるのは、経営の現況と将来の見込みではなく、むしろ過去の情報です。
過去から現在に至るまでの推移をみることで、その会社の収益力や信用力が把握できます。
ベンチャー企業などの業歴の短い会社は、過去の推移による裏付けが得られないため、銀行は積極的に支援できません。
私募債で資金調達する場合、過去の情報もそれなりに重要ですが、将来の展望が一層重要です。
事業計画書によって資金使途や見込みをしっかり説明することで、業歴の短い会社でも資金を調達できます。

持分会社

合同会社・合資会社・合名会社など、持分会社にも私募債が適しています。
持分会社は、社員の出資によって設立する会社のことで、所有と経営が一致しているのが特徴です。
株式会社の場合、株主の出資によって成り立っているため、所有と経営が分離しています。
この違いにより、株式会社に比べて持分会社は設立のハードルが低いです。
簡単に設立できるだけに、持分会社は社会的な信用も低く、融資による資金調達が困難です。
ただし、少人数私募債ならば持分会社でも比較的容易に資金を調達できます。
そもそも、持分会社は社員が出資者になっているため、社員とその縁故者に対して募集することによって、引受人を集めやすいのです。

私募債を活用する方法

最後に、実際の事例から私募債の活用方法を解説していきます。

開発資金・設備資金を調達する

医療用機器の部品を製造しているA社は、市場の低迷によって売上の減少に苦しんでいました。
A社の経営改善策は、海外企業や国内の他企業が対応できる製品から完全に撤退し、独自技術によってA社だけが製造できる製品に注力すること、そして独自技術のさらなる研究開発に取り組むことです。
この改革に伴い、製造工程の効率化、製造設備の刷新、倉庫の縮小、研究開発などに必要なコストを少人数私募債で調達しました。
引受に応じたのは従業員とその親類、販売先、仕入先の計35名。
発行総額は3500万円、利率は3%、償還期間は5年一括償還の設定です。
ただし県から3年間にわたり1.5%の利子補給を受けたため、実質的な金利負担は1.5%に抑えています。
縁故者から調達したことにより経営に緊張感が生まれたほか、仕入先・販売先の信頼にもつながりました。

銀行融資と少人数私募債を組み合わせる

B社は、金型の製造・販売業者です。
世界経済の急変によって大手取引先からの受注が減少し、一時は赤字に転落。
経営の立て直しに成功し、黒字体質になったことを機に業容拡大に乗り出しました。
B社の計画は新工場を取得し、成形分野に進出すること。
自社工場の取得には多額の資金が必要です。
ところが、メインバンクに融資を要請したところ、融資上限額だけでは十分な資金を調達できません。
このときB社は、メインバンクから商工会が実施する事業の紹介を受け、中小企業診断士の支援によって少人数私募債を発行することにしました。
私募債の引受人は仕入先、販売先、経営者の親類と親類の友人、地域住民の計20名です。
利率は3%、6年後に一括償還の条件で3000万円の調達に成功しました。
メインバンクからの融資と少人数私募債を組み合わせることで、B社は無事に自社工場の取得と成形機の導入を行うことができました。
少人数私募債のデメリットとして、多額の資金調達に不向きであること、融資環境の悪化することなどを挙げましたが、B社のように銀行との協調によって少人数私募債の発行に成功するケースもあります。
その場合、多額の資金調達も可能であり、金融機関の評価が低下する懸念もありません。

少人数私募債で入居率アップに成功

建築・土木業のC社では、公共事業の減少による収益低下が続いていました。
この状況を打破するために、C社は介護業への進出によって収益の柱を作ることを計画。
土地の取得と介護施設の建設は自己資金と銀行融資によって確保できたものの、不安なのは開所後の運営です。
特に介護業では、入所者を確保できなければ収益は得られません。
そこでC社は、介護設備の充実と入居推進を同時に進めることを考えます。
設備資金と当面の運転資金を少人数私募債で調達するにあたり、入所者の紹介が期待できる縁故者に絞って勧誘したのです。
引受人は従業員、知人、親類の計35名。
利率2%、5年一括償還の条件で3500万円の調達に成功しました。
開所後、少人数私募債の引受人の紹介で入所者を確保でき、2年目までに入居率80%を達成。
その後も入居率を高水準で維持しており、今では収益の第二の柱となっています。

まとめ

私募債の基本的な仕組みから実際の活用例までくわしく解説しました。
現在、銀行融資に苦戦している会社でも、私募債ならばスムーズに資金を調達できる可能性があります。
また私募債は、工夫次第で活用の幅が広がります。
活用の事例でも紹介したように、他の資金調達方法と組み合わせて利用したり、引受人との関係によってその後の経営が加速したりと、資金調達以外の副次的な効果も期待できるのです。
ただし、私募債にもいくつかの種類があり、それぞれメリット・デメリットが異なるため、慎重に検討することが大切です。

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