令和4年(2022年)11月1日、金融庁は「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」「主要行向けの総合的な監督指針」「系統金融機関向けの総合的な監督指針」および「漁業系統信用事業における総合的な監督指針」に関しての一部改正(案)(出典元:金融庁HP「報道発表資料」)をとりまとめ公表しました。
これらは物価高克服や経済再生実現のための総合経済政策の1つです。
本記事では、「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」などの改正が、中小企業の資金調達に与える影響などを解説せていただきます。
改正案施行後は「経営者保証なし」での融資の可能性が高まる
「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」などの改正案が施行されるのは、2023年4月からではないかと予想されており、改正後は中小企業が融資を受ける際のリスクが大きく減少し、積極的な資金調達が行いやすくなると期待されています。
長く続きまだ完全に影響がなくなったとは言い切れないコロナ禍や物価高の影響により、現在も中小企業の多くは資金繰りに苦労しているのが現実です。
また金融機関からの融資を受けるのも容易ではなく、資金調達のハードルも低くはありません。
しかし「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」などが改正されれば、経営者保証なしで融資が受けられる企業が増加し、スムーズな資金調達が行いやすくなる可能性が高いのです。
「経営者保証」とは?
中小企業が金融機関から融資を受ける際に、経営者本人(またはその家族)が連帯保証人になることを「経営者保証」と呼びます。
経営者による個人保証のことであり、返済が滞った際には債務に関する負担を背負うことになりかねません。
現在は「無担保・無保証人」などと記載されているビジネスローンであっても、但し書きで「法人の場合は、原則代表者様の連帯保証が必要です」などと書かれていることが少なくはありません。
つまり現実的には、経営者様が連帯保証人となり返済の責任を負うことが求められている金融商品が多く、融資による資金調達を行う際には経営者様にとっての大きな負担となってしまっています。
「個人保証に依存しない融資慣行の確立」が監督指針改正の大きな目的
「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」などの改正案が目指す大きな目的は、「個人保証に依存しない融資慣行の確立」です。
現在は多くの金融機関で当然のように求められている経営者保証を、必要な状況でのみに限定することで、経営者様が連帯保証人にならなければいけない状況を減少させられるようになります。
また今回の改正案が施行された後は、現在すでに融資を受けている経営者様の、経営者保証を外せる可能性も出てきます。
経営者様の個人保証が不要となれば、万が一にでも返済ができない状況に陥ってしまった時にも、大き過ぎる負債を背負わずに済むようになり、融資を申込む際の不安も大きく軽減されるはずです。
「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」などの改正が与える影響
現在は金融機関から強制に近い形で求められていることもある経営者保証ですが、改正案施工後は一定の条件に当てはまらない限りは求めることが難しくなくなります。
また金融機関が中小企業に対して経営者保証を求める際にも、幾つもの段階を踏む必要が発生することから、金融機関が中小企業の経営者様に対して保証を求める割合は大きく減少すると考えられているのです。
金融機関が経営者保証を求める際には「説明義務」が発生する
融資を希望する中小企業に対して金融機関が経営者保証求める際には、改正案施行後は「合理的な理由と説明義務」が発生することになります。
「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」の改正案の中には「個人保証契約については、保証債務を負担するという意思を形成するだけでなく、その保証債務が実行されることによって自らが責任を負担することを受容する意思を形成するに足る説明を行うこととしているか。」と書かれています(出典元:金融庁HP「「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」の一部改正(案)(新旧対照表)」)。
またこの中には「どの部分が十分ではないために保証契約が必要となるのか、個別具体の内容」という一文も記載されています。
複雑に感じ意味を捉えにくい文章ではありますが、これらは形式的な説明を行うだけでなく、経営者様に対して個人保証が必要となる合理性の高い理由説明が必要であり、その上での確認が必須というような意味合いとなります。
現在は「保証契約について説明」を行い確認するだけでOK
改正案が施行される前である現在では、融資を行う金融機関は経営者様(連帯保証人)に対して保証契約について正しく説明し、説明を受けたことを連帯保証人となる方に確認するだけで構わないとなっています。
改正案に記載されている「どの部分が十分でないために保証契約が必要となるのか、個別具体の内容」という一文はなく、保証契約の必要性に関しての説明は必須とはなっていません。
これにより現在では多くの経営者様が金融機関から経営者保証が必要と求められた場合、融資を受けるには従うしかないという状況になってしまっているのです。
「保証契約」の変更・解除などについての説明義務も発生する
改正案が施行された後で経営者保証を求める際には、金融機関側には「どのような改善を図れば保証契約の変更・解除の可能性が高まるか、個別具体の内容」についても説明する義務が発生します。
これに関係し、金融機関が求める条件を満たす改善が行えれば、現在融資を受けていて契約内容に経営者保証が含まれていても、解除することが可能となります。
また金融機関は融資の前に保証が必要な理由を説明するだけでなく、変更・解除方法も提示しなくてはならなくなるため、契約前に対応できれば経営者保証を付けずに融資を受けられる可能性も高まります。
経営者保証を求めるハードルが格段に高まる
「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」などの改正案が施行された後は、金融機関は現在よりも保証人に対して誠実な対応と詳細な説明が求められます。
さらにそれだけでなく改正案には、「保証人に対し説明をした旨を確認し、その結果等を書面又は電子的方法で記録することとしているか。」とも書かれています。
これにより金融機関は経営者保証に関しての説明と確認を行った記録を、金融庁に提出しなくてはならなりました。
改正案が施行された後は、金融機関が経営者保証を求める際に発生する手間が現在よりも大きく増えることになります。
経営者保証が必ず不要となるわけではありませんが、金融機関は返済が滞るリスクと手続きの手間を天秤にかけることになり、その結果として経営者保証を求められる企業の割合が減少することが予想されているのです。
「経営者保証に関するガイドライン」のクリアが重要ポイント
「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」などの改正案が2023年4月から施行されたとしても、金融機関が必要と判断すれば経営者保証を求められるのは間違いありません。
その大きな判断基準となるのが、中小企業庁のHPにも掲載されている「経営者保証に関するガイドライン」です。
このガイドラインの要件をクリアしていない企業に対しては、金融機関は経営者保証の必要性を説明しやすくなり、逆にクリアしている企業は経営者保証なしで融資を受けられる可能性が高まります。
経営者保証ガイドラインの3要件
- 資産の所有やお金のやり取りに関して、法人と経営者が明確に区分・分離されている
- 財務基盤が強化されており、法人のみの資産や収益力で返済が可能である
- 金融機関に対し、適時適切に財務情報が開示されている
(出典元:中小企業庁HP「経営者保証に関するガイドラインとは」)
「経営者保証ガイドラインの3要件」として、上記した3つが定められています。
ガイドラインの中では、これらの全てまたは一部を満たすことで、経営者保証なしでの融資を受けることが可能となり、すでに経営者保証を契約内容に含み融資を受けている場合でも見直しが期待できるようになると記載されています。
このガイドライン自体は現在も活用されており、要件を満たす企業が経営者保証なしで融資を受けられている割合は増加傾向にあります。
しかし今後、「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」などが改正されれば、更にその傾向が強まることが予想されます。
「経営者保証」に関係する改正は中小企業にとっての大きなチャンス
経営者保証があることで、金融機関にとってはリスク軽減の効果が期待できるのは事実です。
ですが連帯保証人となった経営者様は大きなリスクを背負うことになり、融資を受けることに対して躊躇する理由ともなります。
しかし「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」などの改正が行われ経営者保証なしでの融資が受けやすくなれば、事業展開に対して積極的になることができ、もし事業を失敗したとしても再度立ち上がる機会を得やすくなります。
これらは経営者様にとっての大きなメリットともなるはずであり、今回の改正案は中小企業にとって大きなチャンスとなる可能性が期待が大きいのです。
※なお、本記事の記載内容は金融庁のHPを中心に、その他関係サイトの情報にも基づき作成しています。