「コロナ禍」は規模を問わず多くの企業に多大な影響を与え、売上を大きく減らし資金繰りが苦しくなってしまったという企業も決して少なくはないはずです。
ですが、このタイミングで世の中の変化に対応し、売上を大きく伸ばした企業も少なからず存在します。
もし企業の経営者様がこれまでの経験を活かしつつ「新たな挑戦」を考えているのであれば、「事業再構築補助金」が役立つかも知れません。
本記事では「事業再構築補助金」の概要や申請時の必須要件、さらには利用する際の注意点等も解説させていただきます。
「事業再構築補助金」とは?
経済産業省のHPでは事業再構築補助金について、「事業の再構築に挑戦する皆様へ」として以下のような文章が記載されています。
- ポストコロナ・ウィズコロナ時代の経済社会に対応するための「企業の思い切った事業再構築を支援」
(出典元:経済産業省HP)
この文章が示すように、事業再構築補助金は事業再構築に対して強い意欲を持つ中小企業・中堅企業への支援を目的とした補助金であり、現状を変え企業として成長するために活用できる制度なのです。
「事業再構築」とは?
事業再構築に関しての説明としては、経済産業省の中小企業庁が作成した「事業再構築指針」が基本となります。
事業再構築の定義—新分野展開・事業転換・業種転換・業態転換又は事業再編」のいずれかを行う計画に基づく中小企業などの事業活動
また、これらの事業活動は以下のように定義されています。
新分野展開—主たる業種・事業を変更することなく、新たな商品の製造や商品やサービスの提供を行い、新たな市場に進出すること
事業転換—新たな製品を製造し、または新たな商品・サービスを提供することによって、主たる業種を変更せず主たる事業を変更すること
業種転換—新たな製品の製造、新たな商品・サービスの提供によって、主たる業種を変更すること
業態転換—製品や商品、サービスの製造方法や提供方法を相当程度変更すること
事業再編—会社法上の組織再編行為などを行い、新たな事業形態のもとで新分野展開・事業転換・業種転換・業態転換のいずれかを行うこと
(参考:経済産業省HP )
各業種における事業再構築の例
事業再構築は現在行われている主な業種や業態によって、さまざまな選択肢が考えられます。
中小企業庁が作成した「事業再構築補助金の概要」の中には、事業再構築の事例として以下のような例が挙げられています。
飲食業—居酒屋経営→店舗での営業を廃止し、オンライン注文による弁当の宅配事業に業態転換
小売業—紳士服販売業→紳士服の店舗営業を縮小し、レンタル事業やネット販売事業に業務展開
サービス業—デイサービス(高齢者向け)事業→デイサービス事業を譲渡し、給食や事務などの受託サービス授業に新分野展開
この他にもタクシー事業者が食料宅配サービスを行った例など、様々な活用例が挙げられていますので、事業再構築補助金の活用方法の参考となるのではないでしょうか。
(参考:経済産業省HP)
「事業再構築補助金」に関する経緯
「事業再構築補助金」は、2020年(令和二年)の第3次補正予算の中で成立した制度です。
2021年6月に第1回公募の採択結果が公表され、2022年10月3日から1月13日までの期間で第8回の申請を受け付けています。
2022年で事業再構築補助金は終了するという予想もされていましたが、2022年(令和四年)第2次補正予算で5800億円の予算が積まれ、翌年度の制度継続が決定されました。
しかし制度がいつまで継続されるかは不透明であり、補助金を得られるチャンスが今後も長く続くとは言い切れません。
「事業再構築補助金」の対象企業の条件や「通常枠」の概要
補助金を事業再構築のために受給するには、この補助金を受けるための要件を満たし、受給対象とならなくてはなりません。
また「事業再構築補助金」には全6種類の「公募枠」が用意されています。
まずはこの補助金の中心的な枠となる「通常枠」の補助額や補助率に関しての情報と、申込み条件ともなる必須申請要件を解説させていただきます。
「通常枠」の補助金の範囲や補助率
事業再構築補助金は従業員数によって補助金の上限額が変わります。
また補助金には「補助率」が設定されており、対象となる費用に対して補助率を掛け計算された金額を上限額内で支給されることになります。
通常枠の補助金の額は以下の表のとおりです。
従業員数 | 補助額 |
20人以内 | 100万円〜2,000万円 |
21人〜50人 | 100万円〜4,000万円 |
51人〜100人 | 100万円〜6,000万円 |
101人以上 | 100万円〜8,000万円 |
(出典元:経済産業省HP)
補助率に関しては中小企業は「2/3」、中堅企業は「1/2」となっています。
中小企業と中堅企業の範囲に関しては「事業再構築補助金の概要」の中で以下のように定められています。
中小企業—中小企業基本法と同様
中堅企業—中小企業の範囲に入らない会社のうち、資本金10億円未満の会社
中小企業基本法で定められている中小企業の範囲は、以下の表のようになります。
業種 | 条件 |
製造業その他 | 資本金3億円以下の会社 又は 従業員300人以下の会社及び個人 |
卸売業 | 資本金1億円以下の会社 又は 従業員100人以下の会社及び個人 |
小売業 | 資本金5千万円以下の会社 又は 従業員50人以下の会社及び個人 |
サービス業 | 資本金5千万円以下の会社 又は 従業員100人以下の会社及び個人 |
(出典元:経済産業省HP)
自社の業種や会社規模を確認し、補助金の上限や補助率も確認しておくことで、勘違いが起きてしまうリスクを減らすことができるはずです。
「通常枠」で補助金を受けるための3つの要件
事業再構築補助金の「通常枠」を利用するためには、3つある「必須申請要件」をすべて満たしている必要があります。
1つでも満たしていない場合は利用対象となることができませんので、条件をしっかりと確認し、必須要件を満たすための準備を慎重に確実に行わなくてはなりません。
ここからは、3つの必須申請要件を一つ一つ解説させていただきます。
(3要件の出典元:経済産業省HP)
売上高に関する要件
- 2020年4月以降の連続する6か月のうち、任意の3か月の合計売上高が、コロナ以前(2019年又は2020年の1〜3月)の3か月の合計売上高と比較して10%以上減少していること。
- 2020年4月以降の連続する6か月のうち、任意の3か月の合計付加価値額が、コロナ以前の同3か月の合計付加価値額と比較して15%以上減少していること。
「事業再構築補助金」は、コロナ禍によって売上に悪影響を受けた企業が、事業の再構築を目指すための支援として行われている制度です。
そのため申請を行う必須要件の1つとして、コロナ禍で売上が減少したことを示す必要があります。
条件は上記した2つがあり、そのどちらかを満たしていれば売上高に関する要件を満たしていることになります。
事業再構築計画に関する要件
- 事業計画を認定経営革新等支援機構や金融機関と策定し、一体となって事業再構築に取り組む。
「事業再構築」を目指し補助金を受給するためには、「事業再構築指針」という経済産業省が公表している資料に沿った内容で計画を立てる必要があります。
その際には認定経営革新等支援機関や金融機関からのサポートを受けながら計画を立て、取り組まなくてはなりません。
認定経営革新等支援機関とは、経済産業大臣の認定を受けた中小企業や個人事業主の経営力の強化支援を行う機関です。
中小企業庁のHPには「経営革新等支援機関認定一覧」が掲載されており、対象となる機関を調べることが可能です。
(参考:中小企業庁HP)
付加価値額の増加計画に関する要件
- 補助事業終了後3〜5年で付加価値額の年率平均3.0%(一部5.0%)以上増加、従業員一人当たり付加価値額の年率平均3.0%(一部5.0%)以上増加の達成。
経営革新等支援機関のサポートを受け事業計画を策定する際には、上記した目標を達成できる計画を組み込まなくてはなりません。
見栄えをだけをよくしても、計画に無理があると判断されてしまうと審査通過は難しくなります。
合理的な計画が立案できる、知識と信頼感のある経営革新等支援機関を見つけることが、事業再構築補助金を受給するための重要なポイントであることは間違いありません。
補助金の対象となる経費
- 事業拡大に繋がる有形無形の事業資産への投資
- 本事業の対象として明確に区分できる必要がある
事業再構築補助金の対象となるのは、上記した条件を満たしている経費です。
具体的には建物費・機械装置費・システム構築費・技術導入費・外注費・広告宣伝費・販売促進費・研修費などであり、申請する際には発生した経費が補助金の対象となるかを確認した上で、手続きを行わなくてはなりません。
補助対象とならない経費
- 補助金の対象となった企業の人件費や旅費
- 不動産、株式、公道を走る車両、汎用品の購入費
- フランチャイズ加盟料、販売商品の原材料費、消耗品費、光熱費、通信費
上記した費用は、事業再構築補助金によって補助を受けることができません。
建物の改築や改修、撤去などの費用は補助金の対象となりますが、不動産購入費は対象とならないなど、勘違いしやすい点もありますのでご注意ください。
「通常枠」以外の5枠の概要と必須要件
「事業再構築補助金」は「通常枠」以外にも以下のような公募枠が用意されています。
- 大規模賃金引上枠
- 回復・再生応援枠
- 最低賃金枠
- グリーン成長枠
- 緊急対策枠
全体の応募数の大半を占めるのが通常枠であり、第7回公募でも応募件数15,132件のうちの9,292件が通常枠となっており、割合では6割以上を占めています。
しかしそれ以外の5つの公募枠に関しても、公募枠としての目的に沿い必須要件を満たすことができれば利用価値の高いものばかりです。
また「大規模賃金引上枠」「回復・再生応援枠」「最低賃金枠」の3つの応募枠に関しては、審査に通過できなくても「通常枠」での再審査が行われます(※「グリーン成長枠」も追加書類の提出を行うことで「通常枠」での再審査を希望することが可能)。
ここからは「通常枠」以外の5つの公募枠についての概要を解説させていただきます。
(参考・出典元:経済産業省HP)
大規模賃金引上枠
対象となる事業者
- 継続的な従業員の賃上げとともに、従業員を増加させ生産性向上にも取り組んでいる、多くの従業員を雇用している中小企業等
申請要件
- 「通常枠」の必須申請要件をすべて満たしている
- 補助事業実施期間の終了時点を含む事業年度から3~5年の事業計画期間終了までの間、事業場内最低賃金を年額45円以上の水準で引き上げること
- 補助事業実施期間の終了時点を含む事業年度から3~5年の事業計画期間終了までの間、従業員数を年率平均1.5%以上(初年度は1.0%以上)増員させること
補助額—8,000万円〜1億円(従業員数101人以上)
補助率—中小企業2/3(6,000万円超の場合は1/2)、中堅企業1/2(4,000万円超の場合は1/3)
回復・再生応援枠
対象となる事業者
- 業況が厳しい事業者や事業再生に取り組む事業者
必須申請要件
- 「通常枠」の必須申請要件をすべて満たしている
下記のどちらかの要件を満たしていること
- 2021年10月以降で売上高が対前年(または前前年比)30%以上減少している月があること
- 再生計画等の策定を中小企業活性化協議会等から支援を受けて行っていること
補助額—100万円〜500万円(従業員数5人以下)、100万円〜1,000万円(従業員数6人〜20人)、100万円〜1,500万円(従業員数21人以上)
補助率—中小企業3/4、中堅企業2/3
最低賃金枠
対象となる事業者
- 最低賃金引き上げの影響を受け、業況が厳しく原資の確保が困難な事業者
必須申請要件
- 「通常枠」の必須申請要件をすべて満たしている
- 2021年10月〜2022年8月の間で、3月以上「最低賃金+30円以内」で雇用している従業員が全体の10%以上を占めていること
補助額—100万円〜500万円(従業員数5人以下)、100万円〜1,000万円(従業員数6人〜20人)、100万円〜1,500万円(従業員数21人以上)
補助率—中小企業3/4、中堅企業2/3
グリーン成長枠
対象となる事業者
- 高い成長を目指し、グリーン分野での事業再構築を行う事業者
必須申請要件
- 認定経営革新等支援機関や金融機関と事業計画を策定し、事業再構築に一体となって取り組む
- 補助事業終了後3〜5年で年率平均5.0%以上、または従業員一人当たり年率平均5.0%以上の付加価値額増加の達成
- グリーン成長戦略「実行計画」14分野に掲げられた課題の解決に資する取組として記載があるものに該当し、その取組に関連する2年以上の研究開発・技術開発又は従業員の一定割合以上に対する人材育成をあわせて行う
※売上高の減少は必須申請要件に含まれない
補助額—100万円〜1億円(中小企業)、100万円〜1.5億円(中堅企業)
補助率—中小企業1/2、中堅企業1/3
緊急対策枠
対象となる事業者
- コロナ禍における原油価格や物価価格の高騰等、予期できない経済環境の変化の影響を受けている事業者
- 「通常枠」の必須申請要件のうち、「事業再構築計画に関する要件」と「付加価値額の増加計画に関する要件」を満たしている
- 足許で原油価格・物価高騰等の経済環境の変化の影響を受け、2022年1月以降の連続する6か月のうち、任意の3か月の合計売上高が、2019年~2021年の同3か月の合計売上高と比較して10%以上減少している(付加価値額の減少でも可)等。また、コロナによって影響を受けていること(電子申請時に申告が必要)
補助額—100万円〜1,000万円(従業員数5人以下)、100万円〜2,000万円(従業員数6人〜20人)、100万円〜3,000万円(従業員数21人〜50人)、100万円〜4,000万円(従業員数51人以上)
補助率—中小企業3/4(従業員数5人以下の場合500万円、従業員数6〜20人の場合1,000万円、従業員数21人以上の場合1,500万円を超える部分はそれぞれ2/3)、中堅企業2/3(従業員数5人以下の場合500万円、従業員数6~20人の場合1,000万円、従業員数21人以上の場合1,500万円をそれぞれ超える部分は1/2)
「事業再構築補助金」の採択率と推移
2022年7月1日〜9月30日を公募期間とした第7回公募は、すべての公募枠での採択率は51.2%であり、「通常枠」に絞った場合は47.4%となっています。
また採択率が高いのは「最低賃金枠」の80.9%であり、その他の公募枠は40%〜60%台に収まっています。
すべての公募枠での採択率の推移は第1回の36.1%から始まり、第2回から第4回までは44%台でほぼ横ばい、その後46.1%・50.0%・51.2%と上昇しています。
「通常枠」に絞った場合では第1回の30.1%から回を追うごとに採択率は上昇しています。
採択率の上昇は事業計画の内容が向上していることが理由と考えられ、事業計画策定のサポートを行う経営革新等支援機関等にノウハウが蓄積された結果と予想されます。
業種別の採択割合は?
第7回において採択率が高かったのは、製造業(67.7%)・運輸業、郵便業(54.5%)・建設業(51.2%)となっています。
宿泊業、飲食サービス業や教育、学習支援業も50%近い採択率となっていますが、これら採択率の高い業種は第6回公募でも高い採択率となっており、比較的ですが事業再構築補助金を利用しやすい業種であると言えるかも知れません。
「事業再構築補助金」を申込む際の注意点
事業再構築補助金はコロナ禍を乗り切り、事業を再構築するために役立つ制度です。
ですが利用する際には知っておいていただきたい注意点も、幾つか存在しています。
補助金を申請する前には、以下の注意点もご一読ください。
複数の応募枠への申込みは不可
「通常枠」を含め6つの応募枠が用意されている事業再構築補助金ですが、複数の応募枠へ申し込むことはできません。
また落選後の乗り換えも不可となっています。
ただし、「大規模賃金引上枠」「回復・再生応援枠」「最低賃金枠」は審査通過できなかった場合も自動的に「通常枠」での再審査が行われ、「グリーン成長枠」も条件を満たし希望することで「通常枠」での再審査が受けられます。
「後払い」になるため自己資金も必要になる
補助金は原則的に「後払い」であり、事業再構築補助金も同様です。
設備投資等に必要な費用は一旦は自己資金で支払う必要がありますので、補助金を手に入れてから支払うという考えには適しているとは言えません。
概算払制度による資金調達は可能
事業再構築補助金は「概算払制度」が利用可能です。
この制度を利用すれば、必要書類を準備し申請が受理された場合に、「支払い済みの補助対象経費×補助率×0.9」を上限として先払いを受けることができます。
しかし概算払制度を利用しても経費全額が受給されるわけではなく、自己資金が必要になる点は変わりません。
また経費の対象が納品される前の時点では請求を行うことはできず、概算払制度は一度しか利用できない点にもご注意ください。
補助金の対象となるのは原則採択後の投資のみ
事業再構築に必要な経費であっても、支払いが補助金の受給が認められる前の場合は原則対象となりません。
事前着手申請を行うことで補助金の対象となる可能性はあるものの、2021年2月15日以降であるという条件があり、申請を行ったとしても承認されるとは限りません。
万が一にでも事業再構築補助金の審査に通過できなかった場合には、資金繰りを苦しくしてしまう原因にもなりかねませんので、補助金の交付が確定する前の投資には細心の注意が求められます。
「事業再構築補助金」についてのまとめ
コロナ禍は多くの事業者に対して大きな影響を与え、これまで通りのやり方では先が見えないと不安を感じている経営者様も少なくはないかも知れません。
本記事で解説させていただいた事業再構築補助金は、思い切った事業再構築を目指すのに役立つ補助金です。
制度の目的や申請要件などをしっかりと理解し、適切な準備と手続きを行うことができれば、事業再構築補助金によって経済社会の変化に対応し事業を立て直せる確率を高めることも可能となります。
※なお、本記事の記載内容は経済産業省・中小企業庁のHPや配布PDFを中心に、その他関係サイトの情報にも基づき作成しています。
情報は更新されている可能性がありますので、申請前には公式情報をご確認ください。