資金調達方法といえば、銀行からお金を借りる以外に思いつかない方もいらっしゃるかもしれません。しかし実際には、バラエティ豊かな方法がいくつも存在します。
どのような資金調達方法があり、それぞれどのようなメリットとデメリットがあるのかを押さえておけば、資金繰りに困ったときの選択肢が広がります。
この記事では、「資産」「負債」「資本」のそれぞれを活用した15種類にわたる資金調達方法の具体例と、それぞれのメリット・デメリットを解説します。
資金調達方法は4つに分けられる
資金調達方法は、大きく4つの分類に分けることができます。
- 資産による資金調達方法(アセット・ファイナンス)
- 負債による資金調達方法(デット・ファイナンス)
- 資本による資金調達方法(エクイティ・ファイナンス)
- その他の資金調達方法(補助金・クラウドファンディングなど)
貸借対照表は左側が「資産」、右側が「負債」と「資本」に分かれています。1)〜3)の資金調達方法は、貸借対照表の3要素をそれぞれ活用して資金を調達すると考えると理解しやすいです。
4分類の資金調達における具体的な方法
4つの分類に分けられる資金調達において、具体的な方法例は次のようになります。
アセット・ファイナンス | 資産の売却 |
リースバック | |
ファクタリング | |
事業売却 | |
デット・ファイナンス | プロパー融資(銀行からの融資) |
地方自治体を介した制度融資(保証付融資) | |
公的融資 | |
ビジネスローン | |
社債(公募債・私募債)の発行 | |
親族や知人、従業員からの借入 | |
エクイティ・ファイナンス | 第三者割当増資 |
ベンチャーキャピタル | |
個人投資家 | |
その他 | 補助金や助成金 |
クラウドファンディング |
次の章からは、4分類の資金調達方法と具体的な方法例について、それぞれがもつメリットとデメリットを解説していきます。
資産による資金調達方法(アセット・ファイナンス)
会社の「資産」を売却する、あるいは資産を担保に融資を受けることで資金を調達する方法が「アセット・ファイナンス」です。対象となる資産は、不動産など分かりやすい資産そのものに加えて、売掛債権や事業なども売却できます。
方法1.資産の売却
だれもが思いついて最も簡単な資金調達方法は、手持ちの資産を売却することです。不動産や株式(有価証券)、設備や機械、ゴルフ会員証などが対象になります。不要な在庫や、営業権・特許などの無形資産も売却可能です。
メリット
時間や手間がかからず、今すぐ資金を調達できるのがメリットです。
デメリット
手持ちのものを売るため、必要な金額に到達できないこともあるのがデメリットです。
方法2.リースバック
資産の売却を検討する際に、売ってしまうと事業の運営に支障が出るが、それしか売るものがないというケースがあるかもしれません。そうしたときには「リースバック」を活用する方法もあります。
リースバックとは、資産を売却したあとに、買主とその資産についての賃貸借契約を結び、売却後も買主にリース料を支払い、その資産を借り受けることで使い続ける仕組みです。不動産や車両、設備や機械など、対象となる資産は多岐にわたります。
メリット
資産を使い続けることができつつ、まとまった売却金額が入ってくるのがメリットです。資産を売却するため、固定資産税や保険料などのコストも削減することができます。融資より審査が通りやすく、将来的に新たな資金を入手できれば買い戻しも可能です。
デメリット
まとまった売却金額は入手できますが、月々のリース料が発生するのがデメリットです。リース料は15%ほど割高になる傾向があるため、リース期間が長引けば損になります。加えて、売却金額は通常の売却よりも30%ほど割安に、買い戻し金額は売却金額の110%程度になるケースもある点に注意しましょう。
方法3.ファクタリング
資産だけではなく、売掛債権も売却して資金化することができます。
売掛債権とは商品などを売り上げた代金のうち、まだ回収できていない分を請求する権利です。たとえば、下請業者が部品などを元請業者に売り上げたとき、実際に売掛金が入金するまでに30日〜60日ほどかかってしまうケースがあります。
そのような場合に、売掛債権をファクタリング会社へと売却することで、売掛金を回収するよりも早く現金化できる仕組みが「ファクタリング」です。ファクタリングをサービスとして提供している会社には、ファクタリング専門会社もあれば大手金融機関などもあります。
なお、取引先と結んだ契約書に、債権の譲渡を禁じる条項がある場合は、ファクタリングの利用ができない点に注意が必要です。
ファクタリング(買取型)には次の2種類があります。
- 2社間ファクタリング
- 3社間ファクタリング
2社間ファクタリング
自社とファクタリング会社との2社間で取引が完結し、売掛債権を売却したことを取引先に知られずに済むのが「2社間ファクタリング」です。
ファクタリング会社へと売掛債権を売却し、手数料を除いた売却金額の支払いを受けます。その後、取引先が支払った売掛金を、ファクタリング会社へと支払います。
3社間ファクタリング
2社間ファクタリングでは、自社を経由して、取引先からファクタリング会社へと売掛金が渡りましたが、3社間ファクタリングでは、取引先が直接ファクタリング会社へと売掛金を支払います。
そのため、2社間よりも3社間の方が手数料は安くなりますが、3社間になることで取引先の合意が必要になってくるため、現金化まで時間を要したり、取引先との関係が悪化したりなどのデメリットがあります。
メリット
通常は売掛金の回収まで現金化できない売掛金を、最速で即日に現金化できるのが大きなメリットです。また、審査されるのは売掛金を抱えた取引先であるため、自社の経営状況が悪化している場合でも利用できます。
デメリット
売掛金を即日で現金化できる代わりに、ファクタリング会社に手数料を支払うため、売掛金から手数料を引いた金額しか入手できない点はデメリットです。より手数料が高い2社間ファクタリングでは、売掛債権の約1割〜3割ほどが相場であり、銀行などから融資を受けた場合の金利よりも高くなります。
方法4.事業売却
資産や売掛債権のほかにも、会社の事業自体を売却することもできます。M&Aは会社全体の売却のみではなく、事業単体でも売却が可能です。
メリット
手持ちの資産や売掛債権を売るよりも高額な現金を入手できるのがメリットです。
デメリット
資金調達の中でも、事業売却の手続きには時間がかかることが多く、早くても1か月〜半年程度の期間を要するのがデメリットです。また、事業売却をオーナーが独力で行うのは困難であり、M&Aに強い弁護士や仲介会社に依頼する場合は成功報酬などが必要になります。
負債による資金調達方法(デット・ファイナンス)
お金を借りる、つまり「負債」によって資金を調達する方法が「デット・ファイナンス」です。融資を受ける先は、銀行や消費者金融、地方自治体や公的融資、投資家や親族・知人など、さまざまな選択肢があります。
方法5.プロパー融資(銀行からの融資)
「お金を借りる」と考えたとき、だれもが思いつくのが銀行からの借入でしょう。銀行から融資を受ける方法は主に次の2つに分けられます。
- プロパー融資:銀行から直接融資を受ける
- 保証付融資:信用保証協会を保証会社として、銀行から融資を受ける
メリット
プロパー融資は、後述する保証付融資(制度融資)とはちがって金額の上限がないため、高額の資金を借りやすく、審査も早いのが大きなメリットです。また、安全性が高いため法外な金利を取られるリスクが低く、返済実績を積めば次の融資につながりやすくなります。
デメリット
プロパー融資は銀行から直接融資を受けるため、貸し倒れのリスクを銀行が100%背負うことになります。そのため審査が厳しく、基本的には創業後から3期以上が経過していないと審査に通りません。創業まもない会社が利用するのは難しいのがデメリットです。
方法6.地方自治体を介した制度融資(保証付融資)
銀行からプロパー融資を受けられない場合は、地方自治体に融資を申し込み、地方自治体によるあっせんを受けて、信用保証協会に保証人となってもらうことで、銀行から融資を受ける方法があります。これが制度融資です。
メリット
制度融資には、銀行から融資を受けるのが困難な会社のために、信用保証協会がリスクを肩代わりすることにより、会社の成長をサポートするという理念があります。そのため、審査基準が比較的ゆるやかで、創業まもない会社でも融資を受けやすい点がメリットです。
また、金利の設定が1〜2%前後なケースが多く、プロパー融資よりも低い金利で融資を受けられます。さらには、金利だけを支払えばよい「据置期間」が1年前後で設けられているため、少ない返済金額で済む期間があることから返済計画にも余裕をもてます。
デメリット
制度融資は、貸し倒れ時には信用保証協会が保証義務を負うため、保証金額に上限があります。無担保であれば8,000万円、担保がある場合は2億8,000万円です。それ以外にもセーフティネット保証などによる別枠が存在したり、運転資金の目安として月商3か月分を目安としていたりなどの制限があります。
また、手続きは銀行のみならず、信用保証協会や地方自治体による審査や承認などが必要なため、融資を受けるまでに2〜3か月ほどかかってしまうのがデメリットです。
方法7.公的融資
地方自治体を介した制度融資のほかにも、政策金融機関から公的融資を受ける方法があります。
政策金融機関とは、民間の金融機関が融資をしづらい分野をサポートするため、国が設立した金融機関です。企業への融資を目的とした政策金融機関には、主には次の2つがあります。
・日本政策金融公庫:個人企業や中小企業などが対応
・商工組合中央金庫:中小企業による組合・組合員が主な対象
日本政策金融公庫による「創業時支援」
「創業時支援」では、さまざまな利用者を対象とした融資制度を用意しています。
- 新規開業資金:新たに創業する人ないし創業してから7年以内の人
- 女性・若者・シニア起業家支援資金:上記に加え、女性・35歳未満・55歳以上のどれかに該当する人
- 生活衛生新企業育成資金:生活・衛生関連の事業を新たに創業する人ないし創業してから7年以内の人
- 新創業融資制度:新たに創業する人ないし創業してから2期以内の人が対象の、担保なし・保証人なしの融資制度
- 資本性ローン(挑戦支援資本強化特例制度):地域活性化のために、創業などに取り組む中小・小規模事業者
メリット
政策金融機関からの公的融資は、銀行から融資を受けづらい人をサポートする目的のため、創業まもない企業でも低金利で融資を受けられるのがメリットです。特に「新創業融資制度」は、担保や保証人なしで最大で3,000万円程度を借りられるのが特徴です。
デメリット
制度融資と同様、公的融資は民間機関からの融資よりも手続きに時間がかかる傾向があります。しかし、その点を甘受できれば、それ以外のメリットは大きいので積極的に活用していきたい制度です。
方法8.ビジネスローン
プロパー融資の審査に通るのが難しく、資金繰りを急いでいるときに活用されるのが、銀行やノンバンク(消費者金融)が事業用に提供しているビジネスローンです。
メリット
大手消費者金融のビジネスローンだと、早ければ即日の審査で資金を借入できます。プロパー融資よりも審査基準がゆるやかで、担保と保証人のどちらも不要、オンライン上で手続きを完結できるものが多いのもメリットです。
デメリット
審査がゆるやかな分、ビジネスローンの金利は、消費者金融なら最高金利が18%程度と非常に高めです。金利が1〜3%程度の制度融資や公的融資と比べると大きなデメリットといえます。
方法9.社債(公募債・私募債)の発行
会社は「社債」を発行することでも資金調達が可能です。社債とは会社が資金調達のため第三者に発行する債権であり、社債を買ってもらう代わりに、期日が到達したら元金返済と利息の支払を行う義務があります。
上場企業が発行する社債は、証券会社を通して公開市場で不特定多数に発行する「公募債」です。しかし、公募債には会社の知名度がなければ買ってもらえないというデメリットがあります。
そのため、中小企業では「私募債」という社債を発行するケースが多いです。私募債は、金融機関や保証協会から保証を受けて、少数の投資家に直接社債を引き受けてもらう形式をとります。
メリット
社債は、財務状況が基準以上によければ数年後に一括償還するなど、返済形式を会社側で決めることができるのがメリットです。銀行や消費者金融からの借入に比べて高い利子を払うこともなく低コストといえます。
また、私募債の場合は、金融機関や保証協会から保証を受け、その事実が証券保管振替機構に記載されるため、自社の信用力を周知できる機会にもなります。
デメリット
先述したように、公募債の発行には会社の知名度が関係してくるため、中小企業の資金調達には向いていません。社債の引受人が現れない場合は、金利を上げざるを得ないデメリットもあります。
方法10.親族や知人、従業員からの借入
個人事業主や零細企業であれば、親族や知人から資金を借りるのも資金調達方法のひとつといえます。
発想の転換として、社内に預金制度を設けて、従業員から資金を調達する方法もあります。たとえば、消費者金融から年率18%で借入するならば、従業員に年率2%程度を保証して、会社にお金を預けてもらうのです。銀行の超低金利よりも高い金利を保証できるのなら、従業員にとっても魅力的な制度といえます。
メリット
親族や知人からの借入は、審査や手続きがないため比較的すぐ借入ができ、金利や返済方法などについても相談して柔軟に決められるのがメリットです。
デメリット
反面、近い関係性に甘えてしまって、条件をきちんと決めなかったり返済を怠ったりすると、関係がこじれて深刻なトラブルが生じることもあります。特に、社内預金制度などで従業員からの借入を行う場合には、元金と金利を期日までに返済できるか、従業員との信頼関係の構築が大切になってきます。
資本による資金調達方法(エクイティ・ファイナンス)
株式を発行することで「資本」を増強し資金を調達する方法が「エクイティ・ファイナンス」です。負債によるデット・ファイナンスとは異なり、債権者に資金を返済する義務が生じないのが特徴です。
方法11.第三者割当増資
株式市場のように不特定多数が相手ではなく、特定の第三者を対象に増資(株式発行)を行うのが「第三者割当増資」です。取引先や従業員など、会社と良好な関係を築ける人に株を買ってもらって資金を調達します。
メリット
第三者に株を買ってもらうため、調達した資金を返済しないで済むのが大きなメリットです。投資した人にとっても会社経営に参画できるようになるというメリットがあり、会社に好意的な人を注意深く選べばwin-winの関係が構築できます。また、株式発行により自己資本を増強できるため、経営面でもメリットがあります。
デメリット
融資などほかの資金調達方法に比べて時間がかかる点はデメリットです。また、この方法を乱発すると、オーナーの株式保有割合が減少し、経営権を失うリスクがあります。
方法12.ベンチャーキャピタル
ベンチャー企業といった上場していない会社に出資する機関が「ベンチャーキャピタル」です。上場前に出資し、上場後に株価が大きく上がったら出資資金を回収するのが目的です。ベンチャーキャピタルを活用して資金を調達するには、ベンチャーキャピタルに出資してもらう代わりに、一定割合の株式を渡します。
メリット
第三者割当増資と同じく、調達した資金を返済する義務がなく、自己資本が増強するのがメリットです。また、上場後にできるだけ株価を上げたいベンチャーキャピタルから、経営方針や成長戦略などに関するアドバイスを受けられるというメリットもあります。
デメリット
第三者割当増資と同じく、オーナーの株式保有割合が低下するのがデメリットです。また、ベンチャーキャピタルが一方的に有利な条件にて契約を締結しようと策略する事例もあるため、契約締結にはM&Aに精通した弁護士などの専門家に意見を聞いた方がよいでしょう。
方法13.個人投資家
株式を発行するエクイティ・ファイナンスには、会社に近い第三者やベンチャーキャピタルのほかにも、「エンジェル投資家」と呼ばれる個人投資家に出資してもらう方法もあります。
メリット
ほかの方法と同じく、資金の返済義務がないのがメリットです。また、エンジェル投資家はIPO(新規公開株)など実地経験が豊かな人が多いため、経営などに関するアドバイスを受けられることもあります。
また、エンジェル投資家は出資時と株式売却時に税制上の優遇措置を受けられる「エンジェル税制」という制度もあり、個人投資家から投資を呼び込みやすい状況も存在します。
デメリット
オーナーの株式保有割合が低下する点に加え、欧米では盛んなエンジェル投資家制度ですが、日本ではまだ一般的ではないため、エンジェル投資家自体を探すのが困難な点がデメリットです。
その他の資金調達方法
「資産」「負債」「資本」を活用した方法のほかにも、資金を調達する方法があります。
方法14.補助金や助成金
国や地方自治体が、推進したい政策に合う企業や事業に対して出資するのが補助金・助成金です。受け取るには所定の条件を満たす必要があります。
どのような補助金や助成金を設けるかは、国や地方自治体による年度方針によって変わってきます。一例として、令和2年度には次の補助金が予定されています。
- 省エネルギー投資促進に向けた補助金
- 事業承継補助金
- 承継トライアル補助金
メリット
補助金や助成金は融資と違って、返済する必要のない資金である点が大きなメリットです。補助金によっては、条件を満たせば最大200万円程度受け取れるものもあり、資金繰りの大きな助けとなります。
デメリット
補助金や助成金は一定の期間内に申請する必要があり、実際に支給されるまで数か月ほどかかるケースもあるのがデメリットです。また、受けたい補助金が去年あったから今年も実施されるとは限らず、こまめに情報収集をする必要があります。
方法15.クラウドファンディング
近年、インターネット上の専門サイトを通じて、個人から企業への出資を直接募る方法として着目されているのが「クラウドファンディング」です。クラウドファンディング専門会社に依頼することで利用でき、個人が1口数千円程度から出資できる手軽さから人気を呼んでいます。
メリット
株式を発行することなく、インターネット上で多くの個人から出資を受けられるのがメリットであり、上手に活用できれば画期的な調達方法になる可能性があります。集めた金額は返済する必要がありません。商品購入型のクラウドファンディングでは、企画の斬新さなどがSNS上で話題になれば、大きな金額を集めることも十分可能です。
デメリット
どのくらいの金額が集まるかを事前に予想するのが難しく、企画や会社自体に注目が集まらなければ、資金を全く調達できないリスクもあり得ます。いかに共感を得るか、SNS上の戦略が問われる調達方法です。
まとめ
今回は「資産」「負債」「資本」のそれぞれを活用した15種類にわたる資金調達方法の具体例と、それぞれのメリット・デメリットを紹介しました。
ファクタリングや制度融資、私募債やクラウドファンディングなど、あまりなじみのない方法もあったと思いますが、人があまり知らない制度ほど、把握しておけば強い味方になります。それぞれのメリットとデメリットを押さえて、自社のニーズに合う資金調達方法を選択しましょう。
また、事業売却やベンチャーキャピタルへの株式発行など、高額な資金の入手が可能だけれど専門知識が必要な資金調達方法もあります。その際には、M&Aに精通した弁護士に相談することで、新たな選択肢が開けますので、ぜひご活用ください。